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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)1124号 判決

上告人

大分市

右代表者市長

安東玉彦

右訴訟代理人

河野春馬

被上告人

三浦ブン

右訴訟代理人

広石郁磨

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人河野春馬の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。

同第二点について。

原判決が確定した事実によると、被上告人は、本件土地区画整理事業による換地処分により昭和三九年一〇月七日所有権を取得した換地を、昭和四一年三月四日訴外ナショナル商事株式会社に売り渡し、その登記を了したというのである。このような場合、被上告人の取得した清算交付金請求権は、売買当事者間において右清算交付金の帰属について特段の合意がなされないかぎり、売買の当事者間における関係のみならず、整理事業施行者に対する関係でも、買主たる右訴外会社に移転しないものと解するのが相当である。けだし、清算金に関する権利義務は、土地区画整理法一〇三条四項の公告があり、換地についての所有権が確定するとともに、整理事業施行者とそのときにおける換地所有者との間に確定的に発生するものであつて(同法一〇四条一一〇条一項)、事後、土地所有権の移転に伴い当然輾転する性質のものではないからである。もしこれと反対に解するとすれば、土地の売買代金は土地自体の価値によつて決せられるのが通常であつて、換地についても同様であるから、後日清算交付金が交付される場合においては、売主は価値の高い従前地の代りに入手した価値の低い換地を安い時価で売渡したのに交付金は買主が取得することとなりまた、清算金が徴収される場合においては、買主の損失において売主が不当に利益を受けることとなり、いずれの場合も著しい不公平を生ずるものといわなければならない。したがつて、土地区画整理法一二九条の規定が、換地処分発効後換地が譲渡された場合における清算金の交付の関係については適用がない旨の原判示は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。

同第三点について。

土地区画整理法にいわゆる清算交付金の支払場所については、これを定めた特別の法令は存しないから、整理事業施行者は、民法四八四条の規定にしたがい、清算交付金を受取るべき者の住所地にこれを持参して支払うことを要するものと解するのが相当である。そうすると、清算交付金の請求権者である被上告人がこれを取立てないからいつて、清算交付金の支払義務者である上告人においてこれを持参して支払わないかぎり、履行遅滞の責を免れることはできず、上告人がその弁済期日以降の遅延損害金を付することなく清算交付金のみを供託しても、債務消滅の効果を生じないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決(その引用する第一審判決を含む。)に所論の違法は認められない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎 吉田豊)

上告代理人河野春馬の上告理由

第一点 〈略〉

第二点 原判決には土地区画整理法第一二九条の解釈を誤つた違法がある。

被上告人は換地処分により所有権を取得した本権土地を昭和四一年三月四日訴外ナショナル商事株式会社に売却してその所有権移転登記を了した。

従つて被上告人が所有権者でなくなつた後は清算金(被上告人のいう換地代金)は右訴外会社に支払うのが土地区画整理法第一二九条の趣旨に合致すると解するから被上告人の請求は失当である旨上告人は第一審以来主張したが原審もこれを採用しなかつた。

しかし清算金は同法第九四条の規定によつて換地相互間の不均衡を来さないように算定され形式的には施行者が徴収し又は交付するが実質的には被徴収者の金員を被交付者に取得させるものに外ならぬ故清算金を徴収されるべき換地の所有者がその換地を処分し格別の資産を有しなくなつたような場合には清算事務の円滑な運営は期待できず関係者間の公平も貫き難い。土地区画整理事業の主務官庁である建設大臣も同法第一二九条については前記上告人の見解と同趣旨の解釈を示している、これは同法条の立法趣旨を示したものというべく、これに反する原審の見解は土地区画整理事業の円滑な運営を妨げる場合を惹起すおそれが多分にあり前記法条の正当な解釈とは考えられない、原判決は前記法条の解釈を誤つた違法があるので取消すべきものと思料する。〈以下略〉

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